導入事例
住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けるために、「医療・介護・予防・生活支援・住まい」の5つのサービスを一体的に受けられる「地域包括ケアシステム」の構築が各地で進められている。この地域包括ケアシステム中でも重要な役割を果たす在宅医療を推進するためには、医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、ホームヘルパーなど多職種連携が欠かせない。
神奈川県中央部の厚木市で2015年の開業以来、地域に根ざした診療所として在宅医療に取り組んできた徳武クリニックの徳武巌氏は、ICTによる在宅ケア業務支援システムを活用し、調剤薬局、訪問看護ステーション、訪問介護・リハビリ事業所などと多職種連携ネットワークを構築。訪問診療における患者・利用者の情報について、事業所間で情報共有を進めている。
今回は在宅ケア業務支援システムbmic-ZRを活用した、徳武クリニックと調剤薬局、訪問看護ステーション、訪問介護、デイサービスの各事業所との連携を紹介する。
徳武氏はクリニック開業当初から在宅医療に取り組んできた。その理由を次のように語る。「きっかけは、患者さんとご家族が希望とは異なる最期を迎える現場に居合わせたことです。近所の知り合いのおばあちゃんが、入院先の病院からたまたま一時帰宅していた自宅で亡くなったことがありました。ご家族はこのまま葬儀まで家で安らかに過ごすことを強く希望し、身近な医師である私が呼ばれて死亡を確認したのですが、入院先の決まりで一度ご遺体を病院に戻さなくてはいけませんでした。このとき何も出来なかった経験から、ゆくゆくは開業して在宅医療に取り組もうと思いました」医学部卒業後は、大学病院で麻酔科医として救急医療に従事していた徳武氏。その後、小児医療センター、リハビリテーション病院などで勤務した後、現在の開業地である神奈川県厚木市の民間病院に勤務した。「その病院では麻酔科医の経験を活かし、在宅サポートセンターで緩和治療など在宅看取りも行っていました。さらに訪問看護ステーション、居宅介護事業所など地域の医療・介護関係者、患者さん・ご家族との間で『顔の見える関係』が構築できたことが、現在の多職種連携による在宅医療に役立っています」と話す。
「地域医療として在宅医療を積極的に行い、『家で暮らす』ことを支える。『自宅で病気療養をしたい』『最期は家で迎えたい』という患者さんをサポートする」という開業理念の下、2015年6月、厚木市内の緑豊かな新興住宅地にあるショッピングセンターの中に内科診療所を開設した。「在宅療養支援診療所」の指定を受け、午前中の外来後、午後は診療圏の厚木市・伊勢原市・清川村を対象に訪問診療を実施している。2016年は訪問診療1201件、往診172回(緊急対応を含む)、在宅看取り患者30名に達した。
実際、開業して午前中の外来後に訪問診療や往診に出かけると、患者の血圧、体温、心拍数などのバイタルサインをはじめ患者の様々な情報について、連携する事業所間でいかに素早く、確実に共有するかが大きな課題となった。さらに在宅医療で連携事業所が続々と増え、情報ネットワークの構築が急務となり、「電話でのやり取りはお互いの都合が合わないことが多く、メールでは先方の確認やセキュリティが心配でした」(徳武氏)など、連絡手段の改善のためのICT導入が迫られた。
bmic-ZRを導入したきっかけは、クリニックで使用していた電子カルテメーカーからの紹介。他のシステムと比較すると、「クラウド型システム」「セキュリティの質」「初期投資が少ない」に加え、さらに使用している電子カルテとの連携ができることが導入の決め手となった。2016年2月にシステム導入の計画が始まり、4月にはbmic-ZRが徳武クリニックで稼働。その後、連携を取っている医療・介護の事業所に参加を呼びかけたところ、7月から徐々に参加するようになり、2017年4月現在で徳武クリニックを核に訪問看護ステーション、調剤薬局、居宅介護事業所、ヘルパーステーションなど30施設がbmic-ZRのシステムに参加するようになった(図1)。
患者の居宅訪問時には、徳武氏が診察した患者情報について同行する「bmic担当」事務職員の三橋宏美氏がタブレット端末で入力し、新規在宅患者の情報等をはじめ必要な情報をbmic-ZRを通じて連携施設に提供。一方、訪問看護ステーション、居宅介護事業所、調剤薬局、ヘルパーステーションの各施設のスタッフからは、訪問時に行った処置や状態等の患者・利用者の情報を徳武クリニック側にスマートフォンやパソコン等で送信する。各施設のスタッフが訪問時に報告する情報について、徳武氏は、「例えば、患者・利用者さんの褥瘡などの状態が写真で添付され送られるので、状態を把握して具体的な指示ができるようになった。在宅医療において有用な情報の量が飛躍的に増えました」と、導入のメリットを述べている。
さらに徳武氏は、連携する事業所に対して、「こんなシステムがあるので、いかがでしょうか?」と積極的にbmic-ZRシステム導入を働きかけ、参加事業所を増やしている。これにより、bmic-ZRによる情報の送受信数は、システム稼働当初の2016年7月の数件から同年12月には500件を超え、着実に事業所間の情報共有が進んでいる(図2)。
徳武クリニックと連携し、bmic-ZRシステムに参加している30施設のうち、今回紹介するのが居宅介護事業所「ひかりデイサービス妻田」、訪問看護ステーション「在宅療養支援ステーション楓の風 あつぎ」、訪問介護ステーション「スマイルサポート」、調剤薬局「なかよし薬局」の4つの事業所だ。
このうち徳武クリニックとの間で活発に情報共有しているのが、訪問介護ステーション「スマイルサポート」の介護福祉士・中島ルミ氏だ。
「医師の指示を受けてヘルパーとして利用者宅を訪問し、経管栄養や喀痰吸引等、医療依存度の高い利用者宅を訪問する際に利用者さんの口腔内、栄養状態を確認します。訪問後、報告のメッセージを『bmic-ZR』の参加者全員に配信します。すると、徳武先生から返事が来るとともに、先生が参加されていない事業所にもその情報を連絡してくれます。『bmic-ZR』の導入前は連絡ノートに文字や絵で記入し、各事業所にメールや電話で連絡をしていたため、情報共有に時間を要していました。導入後は、経管栄養時や吸引時の状況、皮膚状況などの情報共有ができ、必要時は写真を添付する事で徳武先生や看護師から指示を頂くことができようになりました。
訪問前に情報が分かるので、KYT 等のイメージを持って訪問する事ができるため、スタッフの安心感にも繋がっています。また、連絡ノートに残せない介護者の心身状況や服薬状況等も合わせて報告ができる事は、在宅生活を送る利用者様を含めたチームケアには『bmic-ZR』の導入のメリットが発揮できていると考えます。顔の見える関係があるからできる情報共有システムだと思います。」などと、『bmic-ZR』導入のメリットを強調する。
また、中島氏とともに、bmic-ZRによる情報共有に熱心なのが、「ひかりデイサービス妻田」の介護支援専門員(ケアマネジャー)の遠藤貴子氏。遠藤氏は、「医療・介護分野は人が相手のためICT化にはあまり期待していませんでしたが、実際使ってみると現場での時間的ロスが無くなることが実感できました」と述べる。そのエピソードの1つが入浴の事業所から「最近、利用者さんの血圧が高めですが、今後も続くようだったら入浴しても良いのでしょうか?」と問い合わせがあったことだ。「今までだったらご家族に『次の受診時に訪問医の先生に聞いて下さい』と返事するか、訪問診療に同行するようにお伝えするしかありませんでした。今ではbmic-ZRを通じて徳武先生にこのメッセージを送信し、先生から返事を受け、入浴の事業所さんに伝えることができ、時間的ロスや連絡に係るストレスが解消されるようになりました」と述べる。
さらに、「在宅療養支援ステーション楓の風 あつぎ」の訪問看護師・髙橋美智子氏は、「bmic-ZR導入により、徳武先生から具体的な指示をいただき、直接コミュニケーションができるようになったことが大きいですね。先生に連絡するときのハードルが低くなったような気がします。また、介護事業所や調剤薬局等と患者・利用者さんの情報について写真等が共有でき、また時系列に見ることができます」と、bmic-ZRによって「顔の見える関係」が築けるようになったと強調する。
各地で進む地域包括ケアシステム構築を目指した医療・介護の情報ネットワークの中で、その役割が高まっているのが調剤薬局である。厚生労働省の「患者のための薬局ビジョン」(2015年10月23日)では、地域包括ケアシステムの一翼を担う「かかりつけ薬剤師・薬局」が持つべき3つの機能の1つに「24時間対応・在宅対応」があげられた。薬局ビジョンとは、2025年までにすべての薬局を、ICTを活用して服薬情報の一元的・継続的把握を行い、24時間対応・在宅対応で医療機関をはじめとする関係機関との連携を持つ「かかりつけ薬局」に再編する薬局再編の全体像を示したものである。この未来像に向けて取り組んでいるのが「なかよし薬局」であり、薬局内外で地域連携、在宅全般に関わっている須田哲史氏である。
須田氏は、『bmic-ZR』ネットワークに参加したことで自社の在宅業務が大きく変わったと言う。「一例として新しく薬が追加になった場合、今までは患者宅で状態を確認して処方理由を推測するところから始まりましたが、『bmic-ZR』で予め分かっているので話の導入がスムーズになりました。訪問する薬剤師は経過を把握したうえで話を進められます。これは服薬指導において大きなメリットです。患者さん視点からみても、情報が共有されていることは安心感に繋がるのではないでしょうか。在宅訪問は通常14日ごとになりますが、その間の服薬状況や体調変化を逐一確認することは困難でした。bmicでは他職種からの情報が毎日のように入ってくるので、14日ごとの「点」が「線」となって結ばれます。まるで地域が電子カルテで繋がった大きな病院になったような印象です。また、状態変化による処方変更に柔軟に対応することも可能です。 実際、『bmic-ZR』の情報から先生に連絡を取り、既に配達した薬を回収して作り直したこともあります。外来における「かかりつけ薬剤師」同様、在宅でも求められることは大きくなっています。薬に関することはもちろんですが、患者さん本人やご家族の想い、エピソードを共有できることもメリットとして強調しておきたい部分です。また、バイタルサインの確認ができることも助かります。血圧情報を見て、血圧計持参で訪問したスタッフもいました。」とそのメリットを語る。さらに今後の課題を次のように挙げている。「『bmic-ZR』というツールをどう使いこなしていくかは利用者の意識次第です。薬剤師側からどんな情報を発信していけば良いのか悩ましい部分はありますが、服薬状況、残薬、副作用など一般的なものから、意外と処方変更点も大事ですね。看護師やケアマネージャーから確認されることがある点です。システムを通じて頻繁に繋がることは、他職種が求める情報を考えるきっかけになっています。繋がって、どうするか。今後の展開は嬉しい課題ではないでしょうか。」
徳武クリニックでは、bmic-ZRのIDカードを各施設に配布する形で連携を実現している。徳武氏は「連携事業所が増える毎にコストはかかりますが、bmic-ZRを通じた情報共有によってコスト以上のものが得られます」と強調する。厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)と社会保障審議会では、2018年の診療報酬・介護報酬の同時改定に向け、改定内容に向けた論議が進められている。その改定の検討項目の中には、「ICTを活用した医療情報の共有の在り方」「より効率的な共有・活用を推進するための医療の情報化等に資する取組の推進」などが含まれている。2018年の同時改定において、地域でのICTを活用した医療・介護の多職種連携をいかに経済面でサポートするのか、その行方も注目される。
bmic-ZRをぜひ、ご検討ください
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